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自治体が行うEBPMとは?EBPMの定義と具体事例について解説

2024.05.31
  • 公共BPO

近年、行政においてEBPMという考え方が注目されるようになりました。ここでは、EBPMの意味や必要性、注目される背景について、分かりやすく解説します。
また、地方自治体における具体的な事例も併せてご紹介します。


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EBPMとは

EBPMとは、Evidence-based Policy Makingの頭文字で、「エビデンス(根拠)に基づく政策立案」を意味する言葉です。

政策を行うにあたって目的を明確にし、その政策によって目的が達成される見込みはあるのか、結果として目的が達成できたのかについて、データを可能な限り集めて分析し判断する取り組みを指します。

経験や勘に頼ることなく、客観的なエビデンスを拠り所として政策を決定・実行する「姿勢」や「立場」のことであるため、これを行えばEBPMになるという具体的な指標があるわけではありません。しかし、EBPMを推進することによって民意や社会状況に沿った、偏りのない政策を立案し、その効果を正しく検証できると期待されています。より信頼される行政を展開するために必要な考え方として、注目されているのです。

参考:「EBPM課題検討ワーキンググループ取りまとめ(概要)」(令和3年6月23日)

EBPMが注目される背景

現在EBPMが注目されているのは、どのような背景によるものでしょうか。
主な2点の要因について、解説します。

ICTの発展によりビッグデータの利用が可能に

以前から使われてきたIT(情報技術)に代わり、近年ではICT(情報通信技術)という言葉を目にするようになりました。これはインターネットによってデジタルデータをやりとりする技術を指す言葉で、情報の伝達や活用を重視している点がITとの違いです。

ICTの発展により、ビッグデータの利用が可能となりました。これまで手作業で行われていた膨大なデータの収集・分析が、自動で効率的に進められるようになり、EBPMに活用されているのです。

減少傾向にある行政資源を有効活用したい

日本国内においては、これまで以上に少子高齢化や過疎化による人的資源の減少が危ぶまれています。地方自治体の財政に関する見通しも、厳しい状況です。このような状況下で、民意や社会状況に沿った政策を効率的に立案・実行するために、EBPMが必要とされています。
日本国内においては、これまで以上に少子高齢化や過疎化による人的資源の減少が危ぶまれています。地方自治体の財政に関する見通しも、厳しい状況です。このような状況下で、民意や社会状況に沿った政策を効率的に立案・実行するために、EBPMが必要とされています。

具体的なEBPMとは

EBPMの推進、すなわち客観的なエビデンスに基づいた政策の展開を目指すために、地方自治体ではどのような手順を踏めばよいのでしょうか。
具体的なアクションとして、以下の3つをご紹介します。

ロジックモデルの作成

ロジック(logic)とは、論理・議論の道筋を意味する言葉です。政策の実施から効果が現れるまでを論理的に示したものを「ロジックモデル」といいます。政策立案に際しては、政策と効果の結びつけを次のように図式化します。

 投入 予算や人員など、行政活動を実施するために投入する資源
 
 活動 投入資源を用いて行う政策活動
  ↓
 算出 政策活動の結果、生み出されたモノ(財)やサービス
  ↓
 直接成果 算出がもたらす直接的な成果
  ↓
 中間成果 直接成果がもたらす次なる成果
  ↓
 最終成果 政策(施策、事業)が目指す最終成果

参考:「政策評価に関する統一研修 ロジック・モデルの作成ーEBPMの基本として」

データ・エビデンスによる政策立案

EBPMにおいては、可能な限りデータを収集・分析し、エビデンス(根拠)を導き出すことが求められます。だからといって、新たにビッグデータを集める必要があるわけではありません。

現在、公的統計という形で、数多くのデータが集積・公開されています。そういった豊富なデータを研究観察する、つまり二次利用することが、エビデンスを求めるうえで効率的だと考えられます。データを研究することにより政策のアイデアが得られたならば、できるだけ早く実証実験を進めましょう。

ランダム化比較実験などによるエビデンスの取得

膨大なデータを分析するだけでは政策と結果の因果関係がはっきりせず、エビデンスとして弱い場合があります。その際は、政策を行ったグループと行わなかったグループの結果を比較して効果を検証する「ランダム化比較実験」を行うことによって、より強いエビデンスを得ることができます。

ランダム化比較実験が難しい状況ならば「自然実験」で検証することも可能です。これは、行政区の境い目の地域で新たな政策を試行し、行政区のすぐ外側(隣接する自治体)との違いを検証する手法です。こうしたデータを解析することで、より強いエビデンスに基づいた政策立案が可能となります。

EBPMによって排除すべき政策

EBPMによって政策の効果を検証した際、データから政策と成果との因果関係が認められる場合もありますが、検証結果によっては政策を排除しなくてはならないケースも出てきます。その主な例を2つ挙げましょう。

負の効果がある政策

政策による負の効果とは、プロジェクト参加者の主観的評価においては役に立つとされていた政策が、実際には目的と逆の結果を生んでいた、というケースです。

たとえば非行防止プロジェクトの政策を行った結果、非行の件数を減らす目的であったにもかかわらず、その政策の後に犯罪行動や疾病が増加した、というケースがそれにあたります。さまざまな要因が推測されますが、データを収集・検証して負の効果があると判明した場合は、その政策の排除を検討しましょう。

効果がない政策

実行後にデータを収集・検証した結果、効果がないと判断される政策もあります。

例えば、健康診断の有無と長生きの関係を検証したケースでは、健診を受けた人と受けない人のランダム化比較実験を複数実施したところ、因果関係なしという結果が出ました。2つのグループに寿命の差は認められず、健診の有無が長生きにつながるわけではないとの結論が出たのです。

このように直接的な効果がないと判明した政策は排除を検討すべきですが、実際には別の効果が認められることもあるため、データをよく検証して継続か排除かを判断するのが望ましいでしょう。上記のランダム化比較実験では、健診によって生活習慣病の早期発見・早期治療が可能になり、生活の質を向上させる効果があると分かっています。

自治体のEBPMの事例

EBPMは全国の地方自治体で推進されています。EBPMによる政策立案の事例を蓄積し検証することで、より効果的にEBPMが実施されるようになると考えられます。
ここからは、地方自治体におけるEBPMの事例をご紹介しましょう。

参考:総務省「令和4年度 統計データ利活用事例集」

大阪府高槻市

大阪府高槻市は、20~40代の人口増加を目的として、EBPMに基づいた定住促進プロモーションを実施しています。

活用したのは総務省の住民基本台帳人口移動報告や、市民課窓口での転出入者アンケートなどです。これらの分析により市内の転出入が多い地域を把握して、交通広告やWeb広告をピンポイントで実施し、子育て・教育環境などについてプロモーションを行いました。その後、ターゲットを20~30代の若い夫婦やカップルに絞り、高槻市への転出入の多い近畿圏で広告配信を展開しました。

結果として、平成2年・3年連続で20~40代の人口が増加し、令和2年度には30代が転入超過、20代は転出超過幅が減少しています。

埼玉県さいたま市

埼玉県さいたま市は、人工透析患者数(特に新規患者数)の減少を目指して実施している事業の効果検証を、EBPMに基づいて行っています。

利用したのは、レセプトデータ・特定健診データ・国保データベース・国保被保険者データです。分析の結果、平成27年度から令和2年度にかけて人口透析患者数が減少しているものの、新規患者の割合には大きな変化が見られないと判明しました。その一方で、HbA1c の有所見者割合が経年的にはやや低くなっていることから、事業の成果が見られたと判断し、今後も毎年調査を継続するとしています。

東京都墨田区

東京都墨田区は、千葉大学墨田サテライトの予防医学センターと連携し、環境と健康の要因分析に基づいた課題解決を図りました。目的は、新型コロナウイルス感染症を踏まえた、ビッグデータ活用によるリスクコミュニケーション手法の確立です。

スマートフォンのGPSデータベースを用いた街の人流データや、日常生活圏域ニーズ調査結果、新規感染者数のデータなどを活用して、ワクチン接種体制の構築や区民健康度に関する社会的要因分析などに役立てました。

これにより、区と大学との連携が取れ、課題に対して迅速に対応できる体制が確保できたとしています。

大阪府吹田市

大阪府吹田市は、産学官民の連携により生涯にわたって健康・医療情報が利活用できるまちづくりに取り組んできました。データヘルス推進に向けた施策を行っており、それらはすべて市民への還元を第一の目的としています。

利用するのは、乳幼児や小中学校の健診データ・国保健康診査や健康長寿健診などの健診データ・国保データベースなどです。

これにより、健康・医療情報に関する研究に新たな知見を得ました。今後も市や研究機関が保有する健康・医療情報を一体的に活用できるデータプラットフォームを構築するほか、さまざまな施策を予定しています。

山梨県

山梨県は、所管する富士川クラフトパークの来場者増加と来訪者の満足度向上を目指して、民間のビッグデータや施設保有のデータを統計的に分析し、政策立案に活かしました。

利用したデータは、公園来訪者数や属性・人々の興味関心事・過去の天候・コロナウイルス感染者数・施設での開催イベント数・バラの開花期です。

分析によって、来訪者の数に影響する要因や、来訪者になりやすい人の特徴が把握できました。今後の情報発信やイベント開催などに活かす予定となっています。

岐阜県大垣市

岐阜県大垣市は、EBPMによる行政課題の解決に向け、民間ビックデータの活用を進めています。そのため、令和3年度にデータ分析サービスを導入しました。

インターネットの検索キーワードや人流などの統計データを分析し根拠とすることによって、効率的に行政課題を解決できるようになりました。得られた分析結果は、衆議院議員選挙の期日前投票所としてショッピングモールを選定する際の根拠としたほか、QRコード決済を活用した消費喚起キャンペーンの実績や効果の分析に活用するなど、成果を上げています。

和歌山県

和歌山県は、県内における空き家分布を高い精度で推定するため、行政データを用いて行える機械学習モデルを構築しました。

利用したデータは、和歌山市の住民基本台帳・建物登記情報・水道情報・空き家調査結果です。一方で、行政データを利用できない地方自治体に向けては、空き家調査結果・国勢調査・住宅土地統計調査のミクロデータを用いて解析できる、機械学習モデルを構築しました。

このモデルの性能評価を行った結果、空き家を正しく予測できる確率は90%を超え、高い性能が認められました。予測された空き家を地図に示すこともできるため、調査の効率化が期待されます。

まとめ

EBPMとは、目的を明確化しエビデンスに基づいた政策を立案しようとする考え方であり、今や数多くの地方自治体において推進されています。EBPMは直面している課題を効率的に解決するため必要とされており、今後、当たり前の視点として定着していくと考えられます。

ICTの発展やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に伴って、EBPMは一層効果的に実行されるようになり、よりよい社会の実現に貢献することでしょう。 

日本トータルテレマーケティングでは、自治体のDX支援を行っており、デジタルとアナログ両軸でのサポートが可能です。特に、地域ではデジタル機器に不慣れな住民の方もなかにはいらっしゃいます。先進的な技術を導入しつつも、自治体の担当者・住民の方と上手く共存できるような施策を提案いたします。


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