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EC物流の動向と、業界を取り巻く課題と解決方法について

2024.07.09
  • EC総合支援

EC市場の需要拡大により、物流市場も年々成長しています。今回は、市場規模が拡大した要因や、今後の動向についてくわしく解説します。物販販売やデジタル販売が拡大する中でのEC物流の課題や、最適化のためのヒントも取り上げますので、ぜひ参考にしてください。


2024年6月時点でのEC物流に関するトピック

2024年6月時点におけるEC物流の現状について、物流施設の実態や物流企業が抱えている懸念点を紹介します。

EC向け物流施設の空室率が増加している

2020年以降急速に発展したEC向けの物流施設において、空室率の増加が話題です。コロナ禍の物流事情やその後の流れを見込んで物流施設を増設した結果、空室率が高くなりました。

これは、EC事業を展開している企業の規模や数と比べて、必要以上に物流施設を建設しすぎた結果です。立地条件のよくない物流施設や、敷地面積が狭い施設は、今後の使用率も懸念されています。

送料が高騰している

配送に関する送料の高騰化も問題です。近年の燃料費高騰の影響と時間外労働の上限規制が始まる「2024年問題」の影響を受けて、配送料の値上げをした企業も少なくありません。配送料が理由で、ユーザーの買い物意欲に抑制がかかることもあるでしょう。

運送会社の倒産が相次いでいる

近年の燃料費高騰や人手不足の影響で、運送業者の倒産が相次いでいます。
2023年の道路貨物運送業の倒産は、328件を記録しました。前年とくら比べると32.2%増えていて、経営に限界を感じる企業が多いことを表します。

また、2024年問題を受けて、高速料金や荷待ち時間のロスタイムなどの負担が大きい長距離運送から撤退を考える企業も多く存在します。

運送会社の負担を減らす環境づくりが進まない限り、倒産件数は増える一方でしょう。
EC物流とは

EC物流とは

EC物流とは、ECビジネスを支える物流全体のことを指します。企業によっては、EC物流を自社でおこなう場合もありますが、近年はアウトソーシングする企業も増えています。一般的なEC物流の中心業務は、以下のとおりです。
・入荷、入庫作業
・検品作業
・棚入れ、保管作業
・ピッキング作業
・梱包、出庫作業
・返品対応

EC物流の4つの特徴

EC物流は、一般的な物流とはいくつかの点で異なります。以下に、その主な特徴を述べます。

多岐にわたるBtoC配送先の増加

1件当たりの数量は少ないが、同じ取引先にまとめて商品を送る「BtoB」に比べて、企業が一般消費者を対象とする「BtoC」は取引が多く、配送先が多岐にわたっている特徴があります。

ギフトラッピングなど梱包加工も必要とされる

ギフトとしての購入が多いEC物流では、お中元やお歳暮、季節のイベント用に商品を購入する顧客が多いです。そのため、ギフトラッピングや特別な包装サービスのニーズが高まっています。また、顧客のニーズに応えるため、メッセージカードやのしの準備も必要に応じて検討しなければなりません。梱包作業の質も重要で、緩衝材や包装材の適切な選定も求められます。顧客満足度を高めつつも、指定日までに確実に届けられるよう、効率的な作業が求められます。

ブランドイメージの向上の効果が期待できる

商品を手にする瞬間は、顧客にとって特別な時間となります。そのため、競合他社に差をつけるために、自社ブランドの包装資材を使うなどの工夫が重要視されています。荷物を開ける喜びにブランドの価値をプラスすることで、インパクトを残すこともできるでしょう。ロゴ入り段ボールや独自シールを活用する事業者も増加しています。EC物流は工夫次第で、注文から到着まで一貫した強力なブランドイメージを与えることができます。

フルフィルメントサービスに関する一連の業務をアウトソーシング可能

EC物流において、受注から顧客への配送までの業務全般を「フルフィルメント」と呼びます。フルフィルメントサービスを提供する企業も増えており、これによりEC物流に関する一連の業務をアウトソーシングすることが容易になっています。

EC物流の市場規模と動向

EC物流市場は年々拡大しており、BtoC向けの小口配送も急増しました。市場規模が拡大する要因について、今後の動向も含めて解説します。

スマートフォンが普及したこと

スマートフォンの普及に伴い、デジタルシフトが急激に進んだことによって、個人のEC利用率が急拡大しています。パソコンとスマートフォンの大きな違いは、アプリ利用が可能な点です。スマートフォンではプッシュ通知を活用できるなど、情報を提供しやすくなりました。ユーザーは、プッシュ通知をメールよりも閲覧する傾向があります。この使い勝手のよさが、EC利用の拡大を後押ししているといえるでしょう。

SNSが生活に浸透したこと

スマートフォンの普及とともに、SNSが急成長しています。特に、若者を中心としたトレンドの拡散力が増大しているのも、市場拡大の大きな要因となっています。いまやSNSはEC市場の最重要マーケティングツールとなっており、EC物流のBtoC市場に大きな追い風をもたらしています。なかでもYouTubeなどの影響は非常に大きく、効果は絶大です。

コロナウイルスの影響により巣ごもりが起きたこと

個人のECサイト利用率を後押ししたのが、新型コロナウイルスの感染症拡大の影響による巣ごもり需要です。出勤・通学、外出を控えるなか、感染症拡大の対策として、ECサイト利用が推奨されました。巣ごもり需要の結果、物販系の大幅な市場拡大につながったといわれています。

物販販売のEC市場の拡大

経済産業省の調査*によると、日本のBtoC市場は以下の3つに大別できます。そのなかで、物販系のEC市場は、2013年から2021年の間、持続的に拡大しています。

日本のBtoC市場
物販系 食品・飲料、生活家電・AV機器、雑貨・家具、衣類、化粧品・医薬品、自動車・自動二輪車など
サービス系 旅行、飲食、金融、チケット販売、理美容系、フードデリバリー、医療、保険、住宅関連、教育など
デジタル系 デジタル系
電子出版(電子書籍や電子雑誌)、有料音楽・動画配信、オンラインゲームなど

特に、2019年から2021年にかけては、市場が大きく変動しました。この急激な成長には、コロナ禍による巣ごもり需要が大きく影響しています。しかし、この期間中、国内の物品購入総額はほぼ変わらなかったことから、購入量が増えたわけではなく、購買の場がEC市場に移行したことが要因であると分析されます。

今後は感染リスクが低下し、コロナ以前の日常が徐々に戻ってくると予想されています。実店舗での買い物や観光も再び日常化することで、EC市場の拡大ペースが鈍化する可能性もあるでしょう。

デジタル販売のEC市場規模

デジタル系分野は、物販分野を上回る成長率を示しています。経済産業省の調査*によると、日本のBtoC-EC市場規模におけるデジタル分野の市場規模は、2013年の1兆1,019億円から2021年には2兆7,661億円と、約2.5倍に拡大しました。特に2021年は、前年比で12.38%増加しています。スマートフォンやタブレットの普及、巣ごもり需要による影響も大きいため、コロナ禍が収束したあともこの勢いが続くかどうかはわかりません。

*参考:経済産業省|令和3年度電子商取引に関する市場調査報告書

EC物流の課題

EC市場が拡大する一方で、EC物流は以下のような課題も抱えています。

正確でスピード感のある対応

顧客満足度を維持するためには、正確でスピード感のある対応が欠かせません。商品が遅れると、顧客の関心が薄れる可能性があり、キャンセルされたり競合他社に乗り換えられたりする恐れもあります。EC物流は複雑な工程で成り立っているため、それぞれの工程で正確さや丁寧さが求められます。注文数が増加すると作業量が増え、対応スピードの低下につながることもあるでしょう。適切な人員配置やシステムの導入が求められる一方で、迅速な対応だけではなく、正確さも求められます。スピードと正確さ、この二つを両立させることが不可欠です。

宅配網維持のための料金改定

EC市場の成長に伴って荷物の数量が増え、配達ドライバーも不足しており、企業や顧客が望むEC物流を維持するのが難しくなっています。現在の宅配網を保つには、配送業者は料金を見直して値上げせざるを得ません。料金改定は、送料の値上げに直結するため、EC事業者は適切な対策を練る必要があります。

在庫管理システムの検討

キャッシュフローに直接結びつく在庫管理は、経営に大きな影響を及ぼします。また在庫管理は、顧客とのトラブルを防ぐためにも重要です。たとえば、在庫がない状態で注文を受けてしまったり、予定の在庫が見つからず発送が遅れたりといったトラブルは、発送の問題だけでなく、サイトの評判にも影響します。在庫管理のズレをなくすためには、フロントとバックヤードの連携が不可欠です。必要に応じて、在庫管理システムの導入をすることも検討しましょう。

保管用のスペース確保

EC市場が拡大したため、多くのEC企業が商品の保管スペースの確保に課題を抱えています。商品の保管スペースの確保は、高額な費用がかかるため、全体の性能や効率を低下させる要因や障害となります。また、商品のバリエーションを増やしたい場合や、新しい商品を導入すると更なる保管スペースの確保が必要となります。

競合との差別化

EC需要が高まり、多くの企業がEC市場に乗り出しました。

競合相手が多いため、顧客に自社を選んでもらうには他社との差別化が求められます。たとえば、他社にはないギフトラッピングの選択、自社の強みが詰まった商品の販売などがあげられます。

差別化が不足すると、お得なキャンペーンや魅力的な広告をする他社に顧客が流れるでしょう。

仕事量・内容が多種多様

EC物流の業務は、量も内容も多種多様です。たとえば、食品関係のEC物流は食品在庫の温度管理や消費期限切れのチェックなどが業務に含まれます。一方、化粧品のEC物流であれば、ラッピングギフトの対応やメッセージカードの挿入など、サービス面での業務割合が高いでしょう。

在庫確認や検品作業など基本的な物流業務に加えて、商品に合わせた業務が求められます。取り扱う商品が多いほど負担は大きく、現場の業務も複雑です。

人材不足の深刻化

EC物流の現場において、人手不足の問題は深刻化しています。

物流の業界は、繁忙期・閑散期の差が激しく、人員配置の難しいといえます。想像以上に注文が増えた際は、既存の人員での対応が追いつかず、ヒューマンエラーが起こる可能性もあるでしょう。ヒューマンエラーが積み重なると、人手が離れる悪循環が発生します。

現場スタッフの負担を減らす業務や働き方が求められます。

運用コストの増大

自社で物流倉庫を抱えるとさまざまな運用コストがかかります。主に、物流倉庫を管理する人件費、配送のトラック運用費、倉庫の土地代や賃料などです。特に、配送料や賃料は年々高騰しています。また、業務の一部分を外部業者に委託すると、依頼料も発生します。

事業規模が小さい会社は、これらの支出が負担になるでしょう。新規事業の開拓や事業拡大を考える企業にとって、膨大な運用コストはハードルのひとつです。

EC物流を最適化するために行いたいこと

EC物流を最適化するためには、以下の取り組みが効果的です。

プロセスの見直しと改善

EC物流の課題解決に向けて、まずは現状を明確に把握しましょう。自社にとっての課題を正確に把握することが、最適化のカギとなります。また、業務プロセスの見直しも必要です。現行プロセスを徹底的に洗い出し、改善すべき点を検討しましょう。増加した注文に既存の方法で対応可能か、従来の方法が適切かどうかも、再評価が必要です。

意見の収集と対策

改善の際には、現場のスタッフの声を重要視しましょう。経営陣のみの決定では、現場に即した対策にならない可能性があります。スタッフからの意見を取り入れ、プロセスを行いやすく改善することが大切です。

コストの可視化

EC事業の改善には、物流指標を明確に示すことが不可欠です。特に、EC物流のコストを「固定費」と「変動費」に分類して可視化することで、売上高や粗利において変動費の占める割合を把握しやすくなります。数値の可視化と自社共有によって、全従業員が共通の物流指標を把握できるようになり、全体の利益につなげていくことができるでしょう。

物流システムの導入

EC物流の拡大に対応するためには、物流システムの導入も効果的です。物流システムを利用すると、物流に関する工程を一元管理でき、効率的な業務が実現できます。ただし、いままでの業務フローとは異なる点が多いため、導入の際は、サポート体制が整った企業に依頼することも重要です。

物流アウトソーシングによる外部委託

すべての物流業務を自社で処理することが難しい場合は、先にご紹介したフルフィルメントサービスなどの物流アウトソーシングを活用するのも有効です。特定の物流業務をアウトソーシングすることで、たとば「在庫が増えてスペースが足りなくなった」「物流業務に必要な人手が不足している」といった課題を解決する助けとなります。

物流アウトソーシングは、物流に関連する人件費や管理費のコスト削減にもつながります。物流業務が日々複雑化しているなか、アウトソーシングすることで、企業は主要な業務に集中できるようになるでしょう。

EC物流の流れ

EC物流の流れは、主に以下の5つのステップに分かれます。

1.入荷・検品
2.保管
3.ピッキング・流通加工
4.梱包
5.出荷

最初に、仕入れ先から届いた商品を入荷・検品します。破損している商品はないか、注文した内容と一致しているかなどの確認です。
次に、その商品を倉庫に保管します。消費期限がある商品の場合、消費期限が近いものから顧客へ配送できるような管理が必要です。注文があれば商品をピッキングし、商品の組み立てや裁断など、流通加工をします。
最後に、その商品を規定や注文通りにラッピングして出荷作業をします。

ただし、上記の手順はあくまでも一例です。業務内容は、取り扱っている商品の種類やサービスによって多岐にわたります。

EC物流に関するよくある質問

EC物流に関してよくある質問をまとめました。これから物流業界に進出したい企業の担当者様はぜひ参考にしてください。

EC物流に関する脱炭素化の取り組みについての動向を教えてください

2022年度の日本の二酸化炭素排出量10億3,700万トンのうち、1億9,180万トン(18.5%)は運輸部門からの排出です。脱炭素化において、物流業界の取り組みが重要といえます。

そこで、国土交通省は「物流脱炭素化促進事業」を開始しました。これは、物流事業者が太陽光発電の設置や大容量蓄電池の確保、EV充電スタンドの用意などの一定の条件を満たすと、費用の2分の1まで(上限あり)の補助が出る制度です。

また、大手配送業者間では拠点の最適化を図り、CO2排出量の削減につながるような工夫も広がっています。

FC・DCとは何でしょうか

FCとは、Fulfillment Centerの略称で、EC物流における商品の注文から発送作業、顧客対応まですべてを担うセンターを指します。すべての工程を同じセンター内で完結できるため、業務の効率化や迅速な顧客対応が可能です。

DCは、Distribution Centerの略称で、在庫型物流センターを意味する言葉です。商品を入庫し、その後の保管やピッキング、出庫作業まで担います。ただし、DCには商品の注文管理や顧客対応が含まれません。

まとめ

日本のBtoC市場は拡大を続けていますが、EC物流にはまだまだ多くの課題があります。EC物流を最適化する方法についてもご紹介したので、ぜひ自社のプロセスの見直しと改善を進めることをおすすめします。必要に応じて物流システムの導入や物流アウトソーシングを検討してください。

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